要旨

どの言語にも規則性と個別性が共存しているが、ベトナム語におけるアスペクト辞(時間認知)や単・複数表現(空間認知)に関する規則性は、日本語を母語とするベトナム語学習者(以下、L2学習者)にとって習得が難しいと予測される。この仮説を検証するため、文の容認可否を評価する「容認性判断テスト」を実施した。参加者はL2学習者(n=38)と、対照群としてのベトナム語母語話者(n=30)であった。T検定の結果、L1話者の正答率がL2学習者を有意に上回ることが分かった(t = 11.582, p < 0.001)。さらに、学習者の正答率と他の変数との関係を分析するため、「正答」を被説明変数とし、「刺激の種類」と「学習期間」を説明変数としたロジスティック回帰分析を行った。その結果、刺激の種類(β = 0.827, p < 0.001)および学習期間(β = 0.192, p = 0.023)が正答率に有意な影響を与えることが示された。学習者は容認度の高い文に対してより高い正答率を示す傾向があり、また正答率と学習期間には正の相関関係が認められた(r = 0.38, p = 0.019)が、その相関は強いとは言えない。したがって、単に学習期間を延ばすだけでは顕著な能力向上には繋がらず、より効果的かつ焦点を絞った指導戦略の必要性が示唆される。