本論文では、「要求」のスピーチアクトのストラテジーに見られる言語特徴を観察し、日本人英語学習者の口頭による発話能力の一つである語用論的能力の予備調査したものである。インタビューテストであるSST(The Standard Speaking Test)を書き起したデータから成る日本人英語学習者のThe NICT JLE Corpusを使用し、先行研究のBlum-Kulka, House & Kasper (1989)などによるcoding schemeに基づいて、サブコーパスであるRole-playのタスクのうちShopping及びTrainのトピックに取り組んだ受験者データの一部に「要求」のスピーチアクトによる直接性の度合いを示す語用論的機能タグを付与し、異なる習熟度を弁別する基準特性を示す言語特徴の抽出を試みた。結果、Directなストラテジーが初級学者に最も頻繁に使用され、中級、上級と習熟度が上がるにつれてConventionally Indirect及びIndirectの頻度も上がっていくが、Directなストラテジーの頻度は下がった。なお、Directなストラテジーで使用される特徴的な言語特徴としては、初級学習者がelliptical phrases (文を省略した単語や句)の使用、初中級学習者はdesiresを示す動詞(wantやneed)の使用が挙げられる。初中級学習者になると、imperatives(命令文)やelliptical phrasesの発話と共にpoliteness markerのpleaseを使用するようになり、要求の直接性の度合いを軽減する意識があることが示された。中級以上の学習者が示すdirectなストラテジーではwishes(wishやwould like)、imperatives及びdesiresが同じくらいの頻度で使用されていた。Conventionally indirectなストラテジーは、ability(canやcould)、willingness (will, wouldやdo you mind)及びsuggestory(why don’t you, why notやhow about)の3つのタイプに分類することができるが、最も使用頻度の高いものはabilityであった。また、上級学習者にcanよりcouldの使用が多く見られ、この2つの助動詞の持つ丁寧度の違いを認識していると考えられる。なお、丁寧な依頼表現として英語教育で導入される傾向のあるdo you mindやwould you mindは非常に使用頻度が低く、上級学習者にのみ使用されるにとどまった。なお、SSTでは、習得段階によって与えられるタスクの難易度が異なり、初級・中級レベルでは品物やチケットの「購入」 及び上級レベルでは「返品・返金交渉」と問われるスキルが異なる。つまり、タスクによって発話者が聞き手のメンツを脅かすFTA(face-threatening act)の影響の度合いが異なる可能性が考えられる。そのため、頻度上昇の要因が習得段階を示す特徴であるのか、又はタスクの影響であるか特定することが難しいことが判明した。習得段階別の語用論的能力の基準特性を特定するには、習熟度に関係なく同じタスクの実施結果を補足する必要があることが示唆された。