企業活動による人権に対する負の影響を無くし対処する方法についての議論に、画期的な変化をもたらした「ビジネスと人権に関する指導原則(以下、UNGPs)」は、2011年に国連人権理事会(UNHRC)において満場一致で承認され、ビジネスと人権(以下、BHR)の統一基準として国際社会に受け入れられた。
 UNGPsの特徴は、1つは企業に対し活動する国の国内法や規制に加えて、国際人権法に則り人権を尊重した事業を行うことを求めた点である。2つには、それ自体に法的拘束力が無く、市民社会組織(CSO)等のアクターがボトムアップ型で参加する取り組みによって浸透することが期待される、ソフトローの枠組みである点である。3つには、サプライチェーン上での取引関係、国際協力を通じたBHR推進プロジェクト、CSOのキャンペーン活動に活用され、これらを通じて社会へ普及していった点である。
 先進国の中には、UNGPsに則った国家行動計画を策定した国や、人権に対する負の影響を特定、対処、防止することを企業に求めるデュー・ディリジェンス法を策定する国が現れた。しかし、アフリカにおけるUNGPsを通じたBHRの推進は、先進国ほどには進んではいない。UNGPsが人権の尊重を推進する上で前提とする仕組みは、なぜアフリカ諸国では想定通りに進まないのだろうか。本稿は、その仕組みを特定し、それが機能しない理由を探る。
 このために本研究は、第一にUNGPsが前提とするBHR推進の仕組みを読み解く。第二に、どのような政策ツールや民間規制が指導原則の枠組みと相乗効果を持って使われるのかを説明する。次に、UNGPsの仕組みをアフリカ諸国で行われているBHR推進の取り組みに照らし合わせて、どのように機能したかを検討する。 この研究は、UNGPsがBHRを推進するために前提とするメカニズムを紐解き、それがアフリカの国々でどのように機能したのか、あるいはしなかったのかについて検討し、その機会と欠点は何かについて考察し、アフリカでのUNGPsを活用したBHRの推進が遅い理由の仮説を導き出す。本稿によって導かれた仮説は、次の研究で検証し、アフリカで企業が人権を尊重するように促進する方法を特定することに貢献することを目指す。

Keywords: UNGPs, Business and human rights, Africa, HRDD, the norm life cycle.