主体としての≪物語=歴史≫を予め奪われた女。「父」や「夫」の秩序によって与えられた社会的自己同一性の内で,自らの欲望やセクシュアリティを抑圧することでしか存在しない女。そのような女が,如何にして自らの≪女≫を再発見し≪語る≫主体となることができるか,本論はこの問題を,『モデラート・カンタービレ』における女主人公アンヌ・デバレッドの実践を通して考える。