難度を表す形容詞“简单”と“容易”の語義分析

三宅 登之

現代中国語の“简单”と“容易”は、いずれも「易しい、簡単である」といった、難易度が低いという意味を表す類義語である。実際、“调查方言很简单/容易。”(方言を調査するのは簡単である。)のように、両者がほぼ同じ意味で用いうる場合もある。

ただし、両者の意味は決して完全に等しいというわけではない。両者の意味の本質的な違いを明らかにするため、本稿ではその用法の違いに着目し、コーパスにおける実際の用法を調査した。北京大学中国語コーパスで“简单”と“容易”の検索結果それぞれ上位300例を収集し、両者がどの文成分で用いられているかを調査したところ、形容詞が生起する主要な文成分である述語、連体修飾語、連用修飾語において、使用頻度の差が顕著に見られた。連体修飾語に生起した例は、“简单”が180例であるのに対して“容易”はわずか6例しかなく、逆に、連用修飾語に生起した例は、“简单”が55例あったのに対して“容易”は265例あり、極めて大きな相違が認められた。

简单”は連体修飾語に用いられることが多く、“容易”は連用修飾語に用いられることが多いという言語事実は、両者の意味の違いの統語形式への反映であると言える。即ち、連体修飾語に多く用いられる“简单”は、名詞性成分を叙述することを、一方連用修飾語に多く用いられる“容易”は、動詞性成分を叙述することを、それぞれ本質的な働きとしている。このように、“简单”と“容易”の意味の違いは、実はそれが単なる語彙的な意味の相違に留まらず、両者が本質的に異なったタイプの形容詞(名詞性成分を叙述する形容詞と、動詞性成分を叙述する形容詞)に属するメンバーであることを示唆しているのである。本稿は、従来あまり注目されていなかったこのような2つのタイプの形容詞の存在を提起した。

さらに、“道数学很容易。”(この数学の問題は易しい。)のような、一見“容易”が名詞性成分“道数学”を叙述しているように見える例でも、前提として「この数学の問題を解いてみる」という対象(数学の問題)に対する働きかけ(解くこと)が含意されていることは明らかである。本稿では“容易”は対象に対する働きかけの難易度を表す形容詞であり、“道数学很容易。”のような例では、認知的にプロファイルされる部分が動作から対象へ移行したプロファイルシフトが起こっていると解釈するのが妥当であることを論証した。